注意
この記事は情報提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
2026年2月末の米・イスラエルによるイラン攻撃、そしてホルムズ海峡封鎖。こういった中東有事が起きると、SNSや投資界隈では「石油株買いだ」「有事の金だ」という言葉が飛び交います。
では実際のところ、過去の事例で株価はどう動いてきたのか。「定石」は本当に今回も通用するのか——。湾岸戦争・イラク戦争・ウクライナ侵攻の3事例と、2026年3月現在の動きを並べて整理します。
まず結論:中東有事で株価が動く「3つのフェーズ」
どの有事でも、おおむね以下のパターンが繰り返されてきました。
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開戦直後:株安・原油高・金高
リスク回避の動きで株式が売られ、原油と安全資産(金・国債)が買われる。円安も同時進行することが多い。
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数日〜数週間:短期決着期待で反発
「思ったより早く終わるかも」という楽観が出て、株式が反発。原油も利益確定売りで頭打ちになることもある。
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長期化した場合:スタグフレーション懸念で再下落
封鎖・紛争が長期化すると物価高+景気悪化(スタグフレーション)懸念が台頭し、株式は再び下落圧力に。このフェーズになると「全面安」に近い動きになる。
過去3事例の動き
① 1990年 湾岸戦争
イラクのクウェート侵攻(1990年8月)から多国籍軍の攻撃開始(1991年1月)までの約5ヶ月を見ると:
- 原油: 20ドル台 → 40ドル超(約2倍)→ 停戦後に急落
- S&P500: 侵攻で急落 → 原油がピークをつけたあたりで底打ち → 翌年にかけて大幅上昇
- パターン: 「原油がピークを打ったタイミングが株の底」という典型的な動き
② 2003年 イラク戦争
開戦(2003年3月)をはさんだ動きは湾岸戦争と逆のパターン:
- 原油: 開戦まで上昇 → 開戦と同時に急落(短期決着の織り込み)
- 株式: 開戦まで下落(不確実性の織り込み)→ 開戦と同時に上昇
- パターン: 「不確実性が最大の時が株の底」「開戦が買いシグナル」になった事例
③ 2022年 ロシアのウクライナ侵攻
- 原油: 侵攻直後に急騰、ブレント原油が130ドル超に
- 株式: 侵攻直後に急落、その後数週間で回復
- エネルギー株: 欧米のエネルギー株は侵攻後1年で+60%超の銘柄も
- パターン: 「エネルギー安全保障」への意識が高まり、石油・ガス・防衛株が長期上昇トレンドへ
有事で「上がりやすいセクター」の定石
中東有事 セクター別 株価の動き方(定石)
| セクター | 傾向 | 理由 |
|---|---|---|
| 石油・ガス(上流:INPEX等) | ◎ 強い | 原油価格上昇がダイレクトに収益増 |
| 石油元売り(ENEOS・出光等) | △ やや複雑 | 原油コスト増で必ずしもメリットとは言えない |
| 総合商社(三菱・三井・伊藤忠) | ◎ 強い | 資源権益を多数持ち原油高が収益直結 |
| 海運(日本郵船・川崎汽船) | ◎ 初期は強い | 運賃急騰の恩恵。ただし航路停止リスクも |
| 防衛(三菱重工・川崎重工) | ◎ 強い | 地政学リスク高まりで防衛費拡大期待 |
| 金・貴金属関連 | ◎ 強い | 「有事の金」として安全資産需要が増大 |
| 航空(ANA・JAL) | ✕ 弱い | 燃油コスト急増で収益悪化 |
| 輸送・物流 | ✕ 弱い | 燃料コスト上昇が利益圧迫 |
| 製造業・消費財全般 | ✕ 弱い | エネルギーコスト上昇でコスト増 |
| 小売・外食 | ✕ 弱い | 物価高で消費が冷え込む |
2026年3月の実際の動き
今回の米イラン攻撃後(3月2〜8日)の実際の市場の動きを見ると、過去の定石とほぼ一致しています。
情報
2026年3月2日(攻撃翌営業日)の市場
- 日経平均:急落(リスク回避)
- 円:一時157円台(円安)
- WTI原油:75ドル台(+12%急騰)
- 金先物:上昇(安全資産需要)
- INPEX・商社株:上昇
- 航空株・輸送株:下落
日経記事では「遠くの戦争は買い——今回は通じず」という見出しもありました。原油100ドル超のシナリオがちらつく今回は、単純な「有事の買い」とはいかない局面かもしれません。
「遠くの戦争は買い」は今回通じるか
大和アセットマネジメントの2026年3月3日付レポートでは「深刻な事態は回避と想定。トランプはイランでもTACO(Tariffs Always Come Off=圧力後に交渉)か」という見方も示されています。実際、市場は「短期決着」と「長期化」の両シナリオを同時に意識しています。
セクター別:もう少し詳しく見る
石油・資源系(上流):最もシンプルに恩恵
代表銘柄: INPEX(1605)、石油資源開発(1662)
原油を掘り出して売る「上流」の企業は、原油価格が上がるとそのまま売上・利益が増えます。これが最もシンプルに原油高メリットを享受できるセクターです。ただし、急騰後の反落リスクも同様に大きい。
総合商社:資源権益の恩恵が大きい
代表銘柄: 三菱商事(8058)、三井物産(8031)、伊藤忠商事(8001)
大手商社は原油・LNG・石炭などの資源権益を多数保有しています。原油高は権益価値の上昇に直結し、収益への好影響が大きい。ただし中東での事業リスクも抱えています。
海運:運賃急騰の恩恵、ただし両刃の剣
代表銘柄: 日本郵船(9101)、商船三井(9104)、川崎汽船(9107)
ホルムズ海峡封鎖で主要航路が迂回を余儀なくされると、輸送距離が伸び、需給がひっ迫して運賃が急騰します。ウクライナ侵攻時にも海運株は急騰しました。
ただし、日本の大手海運3社はすでに通峡を停止しており、売上機会の損失という側面もあります。「運賃高騰を取れるのは封鎖解除後」という逆説的な状況もあり得ます。
防衛:中長期で最も堅調になりやすい
代表銘柄: 三菱重工業(7011)、川崎重工業(7012)、IHI(7013)
地政学リスクが高まると、「防衛費をもっと増やすべきだ」という議論が必ず出てきます。日本は2022年から防衛費GDP比2%への引き上げ方針を進めており、この文脈で防衛関連株は中長期的に恩恵を受けやすい。ウクライナ侵攻後の欧米防衛株の急騰がその典型です。
金(ゴールド):「有事の金」は今回も有効
金は通貨価値に依存しない実物資産として、有事の際に安全資産として買われます。2022年のウクライナ侵攻時もNY金先物は急騰しました。
株式ではなく「守り」を重視したい場合、金ETFや金関連株(住友金属鉱山など)への分散も選択肢の一つです。
「定石」の落とし穴と注意点
注意
過去のパターンが今回に当てはまらない可能性がある点
- 原油補助金がすでに終了:2025年末で補助金が消滅しており、日本の家計・企業へのダメージが直撃しやすい
- 日銀の利上げ局面:円安が進むと日銀が利上げを急がざるを得ず、株式市場全体への下押し圧力になる
- スタグフレーションリスク:物価高+景気悪化の同時進行は「全セクター売り」につながりやすく、石油株も例外ではない局面も
- 短期の値動きは読めない:「定石」はあくまで傾向。実際の相場は日々の報道・交渉状況に左右される
まとめ:定石を知りつつ、長期化リスクを念頭に
中東有事の「株価の定石」をまとめると:
- 上がりやすい: 石油上流(INPEX等)・総合商社・海運・防衛・金
- 下がりやすい: 航空・輸送・製造業・内需消費
- フェーズ1(開戦直後): 全体急落 → 資源・防衛系が相対的に底堅い
- フェーズ2(短期決着期待): 株全体が反発、資源株もついていく
- フェーズ3(長期化): 資源株は高止まりも、全体にスタグフレーション懸念で重い展開
今回の米イラン衝突は「ホルムズ海峡封鎖」という点で、過去のどの事例よりも日本への直撃度が高い。定石は参考にしつつも、「長期化した場合の全面的なダメージ」を念頭に置いた慎重な判断が求められます。
短期の相場予測は誰にもできませんが、「有事の中で何が起きているかを理解すること」は、焦らず冷静に行動するための土台になります。